2011年01月25日

【改稿依頼】見本

改稿依頼の例です。

河田直樹さんのご厚意で、実際に差しあげた改稿依頼を見本として提供していただきました。
実際に差しあげた文章を修正なしにそのままの形で掲載してあります。
改稿依頼は、おおよそこのような形で提供させて頂くことになりますので、ご参考にしてください。

改稿依頼を晒すという大変申し訳ないお願いにも拘わらず、快く引き受けてくださった河田さんには、深く感謝申し上げます。大変ありがとうございました。

「さよならいぬの声」

読ませていただきました。

まず結論です。

◆文章は問題ありません。掲載条件をクリアしております。

◆このまま掲載しても問題はありませんが、改稿したほうがより良い作品になるのではないかと思われましたので、いくつかアドバイスさせていただきます。
ただし、作者さまそれぞれの考えや作法がありますし、改稿が必ずしも良い結果を生むとは限りません。
ですから、わたしのアドバイスはひとつの意見にとどめていただいて、必ずしも従う必要はありません。
改稿するしないは、作者さまのほうでご判断のうえ、お決めくださいますようお願いします。

◆改稿しない場合は、このまま文章チェックに回しますのでご連絡ください。

◆改稿する場合は、お手数ですが、改稿の後、再アップしてから、再度ご連絡をお願いします。
来年1月中旬までに改稿が終了すれば創刊号に間に合います。お時間がとれるようでしたら、創刊号に間にあるようにお願いします。
それ以降になる場合は2号以降の掲載になりますのでご了承ください。

以下、改稿をオススメする理由を、「問題点」「問題点が生じた原因」「対処方法」の順に記します。



●問題点

この作品の目指すところは、おそらく「読者の涙を誘い」「感動を与えること」にあると思われます。
しかし、残念ながらその試みが必ずしも成功しているとは言い難いようです。


●問題点が生じた原因

大きくは3つの原因があります。

1.物語が平坦で変化に乏しい。
2.主人公に深く感情移入するにいたらない。
3.「事件」と「結末」との間の連携が弱い。


もう少し細かく説明します。


1.物語が平坦で変化に乏しい。

この物語は、

愛犬を失ったことを受け入れられない主人公が(Aの状態が)

事故当日の犬の立場を体験することによって(Bをきっかけに)

愛犬を失った事実を受け入れる(Cの状態=Aと逆の状態になる)

といったものだと思われます。


Aの状態とCの状態を具体的に示すものが

Aの状態=まだ一回も線香をあげていない。ううん、あげたくないだけ。
Cの状態=毎日、毎日お線香上げるから!

に相当します。

読者を「感動させ」「涙をさそう」ためには、AからCへの変化をより感動的に見せねばなりません。
しかし、「お線香をあげない」状態から「お線香をあげるねと誓う」という変化は、見た目の上からはそれほど大きな変化には見えません。
つまり、「物語の表面的な部分には変化が少なく」「変化そのものには感動を呼び覚ます要素が薄い」と言えます。



2.主人公に深く感情移入するにいたらない

主人公の人物像がステロタイプに陥っているように思います。
おそらく若い女性だろうというのはわかりますが、彼女の生活が匂ってこない。
なんとなく「勤めをしている一人暮らしの若い娘さん」というイメージが湧いてきますが、実在感に乏しいように思います。

たとえば
「朝の日課で散歩」とありますが、
彼女は、仕事前に散歩に行ってるのでしょうか?
だとすると、かなり早朝だと思います。
しかし、犬になって追体験する時の情景は、休日の昼前のようなのどかさを感じました。
石を投げてくる子供が登場しますが、子供が学校へ行くような時間帯(8時前後)に散歩をしていたのでしょうか?
まあ、出勤時間が遅い仕事をしているのかも知れませんが、そう言う部分も含めて、主人公も、主人公とすれ違う「近所のおばさん」や「悪ガキ」にも、生きて生活をしているという感じが弱いように思えました。
実在感の薄い存在には、なかなか感情移入しづらいものです。



3.「事件」と「結末」との連携が弱い

この物語は

愛犬を失ったことを受け入れられない主人公が(Aの状態が)

事故当日の犬の立場を体験することによって(Bをきっかけに)

愛犬を失った事実を受け入れる(Cの状態=Aと逆の状態になる)

であり、物語メインは、Bの部分=「主人公が愛犬の立場で事故を追体験する」だと思います。

この物語の構造からゆくと、AからCへの変化に対して、Bの部分が大きな役割を果たす必要があります。
AからCへの変化の直接的かつ重大なきっかけがBであることが望ましい。

しかし、この話で、主人公の気持ちをAからCに傾けた直接の原因は、「愛犬の立場での事故の追体験」そのものではなく、そのあとに出てきた「愛犬の霊の言葉」のように思えます。


つまり、直接的には、

愛犬を失ったことを受け入れられない主人公が(Aの状態が)

愛犬の言葉によって(B'をきっかけに)

愛犬を失った事実を受け入れる(Cの状態=Aと逆の状態になる)

という構造になってしまっています。

B'には以下のセリフに相当します。
「今日でもう四十九日だから、――ちゃんとは、もう、さよならだね。明日から僕の夢も見なくなるし、自分を責めるのも、全部終わりだよ……」
「僕は、――ちゃんを助けれて、すごくうれしいよ。だから、明日からもがんばって、僕の分もちゃんと生きてね……」

つまり、A→B’→C という流れになってしまっていて、Bの必要性が薄れてしまっている。
一番肝心の(恐らく作者が描きたかったと思われる)Bの部分が物語りの軸からはみ出て、物語の重要なファクターではなくなってしまっているのです。
物語が A→B’→C の流れで成立してしまうのであれば、愛犬が夢枕に立って切々と思いを語るなどすれば、Bなしでも物語が成立してしまいます。

もちろん、B'のセリフを主人公が受け入れる気持ちになったのは、Bの事件(事故当日を犬の立場から追体験すること)があったればこそですが、BとB’の関連が弱く、説明しきれていない感じがします。
「Bの事件が主人公の心に何を生じさせ」、「何が B’のセリフを素直に受け入れる気持ちを生んだのか」が抜けてしまっているのです。
BとB’に濃厚な連携がないため、本来ならば、AからCへの変換の重大なきっかけになるべきBの事件の意義が薄れてしまっているのです。
そこに、読者は「説明不足」を感じてしまいます。
つまり、読者は「なぜ主人公が、わざわざ犬の立場から事故を追体験しなければならなかったのかわからない」と感じてしまいます。



●対処方法

1.物語の変化が乏しい

AとCとで大きな変化を与えればいいわけです。
たとえば、
「心的外傷で外に出られなくなってしまった主人公が外に出られるようになった」
とか
「ペットロス症候群を心配した家族が新しい子犬を与えたが見向きもしなかったのが、子犬を抱き締めた」
などです。

物語に変化を付け、ドラマチックにしようとするならば、ここを練り直すのが一番手っ取り早いと思います。
しかし、必ずしも派手な変化を与えれば面白くなるというものではありませんし、ここを変更してしまうと、河田さんの持ち味が消えてしまうおそれもあります。
むしろ、この部分は今のままにして、他の部分で対処する方がいいかもしれません。


2.主人公に深く感情移入するにいたらない

三人称というのは、登場人物を外側から眺めて冷静に状況を書きつづって行くのに便利ですが、一人称は、登場人物を内側からみて、感情を表に吹き出すのに適しています。
この作品で一人称を選んだのは正解だと思います。
犬になったときの心理描写など、とても良い感じで、ほほえましくて好きです。

ですが、せっかくの一人称の利点を充分に生かし切れていないように思えます。

「主人公だったらどう考え、どう行動するか」

を常に念頭に置き、主人公になりきって書くといいのではないかと思います。
まず、脳内で想像してみてください。
主人公は、どんな年格好で、何を好んでいますか?
朝の散歩はどんな服装?
仕事は何?
何時に出勤?
起床は何時で、何時ごろ朝食を摂って、何時頃に化粧をするかを考えると、おのずと何時頃に朝の散歩をしなくてはならないというのが出てくると思います。
その時間帯は、明るい? 暗い?
寒い? 暖かい?
景色は季節によって大きく変わります。
冬の早朝は真っ暗で空気はキンと張り詰め、吐く息は白く、土の部分には霜柱が立ってるかもしれません。
春は穏やかな明るさにつつまれ道端に花があふれています。犬が踏む地面は少し湿っぽいかもしれません。
夏は真正面からの日差しが眩しい。家のフェンスには朝顔が花を咲かせているかもしれません。
犬が感じるにおいも季節によって違うでしょう。
そんな時間帯に外を歩いているのはどんな人でしょう?
人は多いでしょうか、少ないでしょうか?
道路は混んでる?
事故のあった道路は幹線道路?
それとも、住宅街の比較的狭い道?

色々想像をめぐらしたあと、それらを説明するのではなく、それらの情報を踏まえたうえで、その場面場面で必要な情景を描いて行けばいいのです。
いちいち全部説明する必要はありません。むしろ説明してはダメです。
色々な状況を想像したあと、見えてきた風景や登場人物の行動を、その場その場に合わせて書いて行けばいい。

登場人物の人物像が(特に主人公の人物像が)はっきりと見えてくると、キャラとしてではなく、一人の人間として描くことができるようになります。
その時々の状況に合わせて、この主人公ならばコレを見たときこう感じるだろう、こう考えるだろうという、その人独自の心理の動きを付け加えてゆき、クライマックスシーンでは思いっきり感情をぶつけて行く。
物語の中の作られた人物ではなく、「生きた人間」らしい心の動きが見えてくると、小説はぐっと面白くなります。
一人称の場合、作者は主人公になりきって、演じるようなつもりで書くといいと思います。
人物の心理の微妙な変化、動きが描けると、物語の筋そのものは平凡で平坦でも、深みのある読み応えのある作品になると思います。



3.「事件」と「結末」との連携が薄い

一番大事なのがこの部分だと思います。

「AからCへの変化に、Bの事件を密接に結びつけること」が必要です。

どう結びつけるかというと、やはり「主人公の内面の変化として描く」ことだと思います。

「お線香を上げたくない」
という気持ちは、つまりどういう気持ちだったのでしょう?
「お線香を上げるね」
というのは、どういう気持ちなのでしょう?

そこがしっかりと掴めていれば、「お線香を上げたくない」気持ちが「お線香を上げるね」に変化するために必要な要素(心の変化)がどのようなものであるかも見えてくると思うのです。
その必要な要素を、Bの事件を通して主人公に悟らせればいいわけです。

わたしが読んだ限りでは、残念ながら「お線香をあげたくない気持ち」も「お線香を上げるね」といった気持ちも、あまりにも漠然としすぎてつかみ所が無く、実感として受け取ることができませんでした。
その辺の主人公の心情がリアルに伝わってきて、読者がそれを理解したとき、納得が生まれ、感動も生まれるのではないかと思います。




以上、わたしが感じた部分を書かせていただきました。
もちろん、これはわたし一個人の感じ方、考え方で書いています。
作品の読み方が浅く、勘違いしているかもしれません。
勘違いを元にしたアドバイスは無益なものですし、他の人がこの作品を読めばまったく別の意見があるでしょうし、わたしのアドバイスを受け入れることによりせっかくの持ち味が失われてしまうなどの危険があるかもしれません。

ですので、これは飽くまでも参考程度にとどめて、改稿するしないの判断は作者様の方でなさっていただきますよう、重ねてお願い申し上げます。

勘違いや、思い違い、さらには、わたし自身の思い込みで、余計なアドバイスになってしまっているかもしれません。
河田さんの作品に対して、大変失礼なことを書いてしまっているかもしれません。
至らぬところが多々ある人間ですので、どうか寛容なお気持ちでご容赦願えると嬉しいです。

また、このアドバイスは誤字脱字チェック等しないままお送りしているので、文章的におかしなところがあるかもしれませんがご容赦ください。
あまりに意味が通らない文章がありましたら、お手数ですがご連絡ください。

アドバイスについて、不満な部分、納得のいかない部分等ありましたら、遠慮なくご連絡ください。
よろしくお願いいたします。


この作品は、「改稿せずに掲載」を選択されたので、改稿依頼の対象となった原稿は校正見本の原稿と同一です。
posted by なび at 13:30| 校正見本