2012年03月22日

3号

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でんしょでしょ!

vol.3



横書き版(パブー)
 *HTML=ブラウザでの閲覧用。PCでそのまま見る場合はこちらをどうぞ。
 *PDF=横書きPDF。(あまり表示が綺麗じゃありません;)
 *ePub=電子書籍として閲覧の場合はこちらをどうぞ。


縦書き版(iPadZine)
 *PDF=書籍風の縦書きレイアウト。PDFをご利用の場合はこちらがお薦め。
(創刊号ではデカ文字版を作成しましたが、需要が少ないようですので、通常版の文字サイズを若干大きめにして、デカ文字版の作成は見送りました。おおきな文字サイズがお好みの方は、パブー版のePubをご利用ください)

感想
レビュー
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                   掲載作品紹介


初夏のともしび初夏のともしび →すぐに読む
作 橘高有紀/絵 ひろ

祖父が遺した田舎家を訪れた真一は、見知らぬ少年に誘われ闇夜を走る。花火が上がる。祭拍子が聞こえる――
現代青春幻想譚


■■ 冒頭抜粋
 緑の山間を、歩いていた。葉の隙間から落ちるきらきらとした光のなか、鞄背負って息を切らせながら。汗をぬぐった指を地図に這わせた。バスを降りてどれだけ歩いただろう。そろそろ目的地のはずである。
 先月、祖父が死んだ。二年ほど前から入院し、会うたび痩せていく祖父の最期に、俺は立ち会うことを許されなかった。じゃあまたくるから。そう言って病室を出たときには元気そうだったが……その日の夜中、祖父は息を引き取った。両親の慌ただしさから異常を察したが、家にいるよう厳命されたのだ。
 入院中の祖父にだれよりも会いに行ったのは、きっと俺。祖母はとっくに他界していたし、親は仕事があったからだ。顔をみせるたび喜んだ祖父がする話を、なんとなく聞いていた。
(じいさんがいなくなって、ひと月)
 だが、俺の生活はなにも変わらなかった。寂しさや悲しさで胸が潰れるのだと身構えたが、心はちっとも動かなかった。祖父の冷たい身体へ触れたときでさえ、だ。現実と夢の狭間にいるような浮遊感に支配され、涙を流すことなく淡々と葬式は終わった。自分でも薄情だと思った。……五年近くを共に暮らした人が、消えたのに。



この地球の美しさといったら!この地球の美しさといったら! →すぐに読む
作 柚希実/写真 写真素材 足成

人類の存亡を一身に背負うシュウ。だが、彼の人生の歯車は、冷凍睡眠中の美女を見た時から狂いはじめた。
サスペンスフルSF


■■ 冒頭抜粋
 地球周回軌道上の宇宙船から伸びた長いアームが、地球の大気を採取してゆっくりと畳まれていく。古いアームは、時々異常な動きを見せながらも船に寄り添い、取り込んだ空気を船内に送り込んできた。
 まずここまでは上手くいった。シュウは緊張を逃すため、身体に溜め込んでいた息をすべて吐き出した。視線が落ちて目に入った服は薄汚れている。だが、どうせ宇宙船にはシュウ一人しかいないので、気にする必要はなかった。船内に残っている男物の服はこれが最後だから、どちらにしろ着替えようがないのだが。
 薄暗い室内、シュウがコンソールに指を滑らせると、気体分析機のシグナルがいくつか点滅を始めた。少しの間を置いてモニターに映し出されてくる分析結果は、この宇宙船が地球を離れる以前の数値にほど近く、人類が繁栄していた頃の状態に戻っていることを示している。
 オールクリア。
 大気以外の分析が終わっていないとはいえ、その大きく真ん中に映し出された文字に胸が高鳴った。



moonless strollmoonless stroll →すぐに読む
作 kakua/絵 damo

幼子の手を引いて聖美は家を出た。どうしようもない衝動に駆られて……
現代掌編


■■ 冒頭抜粋
 娘の、小さく柔らかな手は、聖美の左手をぎゅうと握って離さない。あたたかなそれを、聖美も強すぎないちからで握り返した。
 聖美のローファーのヒールがかつりと音を立てる。けれど、小さなスニーカーの足元では、枯れた草を踏みしめる音がする。さくり、さくりと。無言の歩みのうちに、娘はその感触に楽しみを覚え始めているらしい。
「……綺麗な音、するね」
 そう話しかけると、娘はうん、と頷く。涙のあとの残る頬を軽く撫でると、ふわり、嬉しそうに娘は笑った。好きなだけ踏んでおいでと聖美はその手を離す。認められた、と思うのか、踏みしめる足音はスピードを増した。
 聖美は静かに空を見上げる。月も星もない淀んだ空が、目の前に広がっていた。
 肌寒い、夜だった。
 真冬には程遠いはずなのに、体の芯から冷えてしまいそうな夜だった。
「……おつきさま、みえないね」
 ぽつりと、小さな声がした。いつの間にか、枯れ草を踏む足音は止まっている。
 月が好きな娘は、小さく、残念そうに呟く。うん、と聖美は答えて、ひどくあたたかな手を引いて先を促す。
「今日は、隠れてるね」
「さみしいねえ」



レーネン山中の魔物レーネン山中の魔物 →すぐに読む
文 梓寝子/絵 立神勇樹

父と大叔父が旅の青年を魔物退治に利用しようとしている!? 少年は憤りを胸に家を飛び出した!
異世界ファンタジー


■■ 冒頭抜粋
 秋も半ば過ぎの、ある日。少年が一人、急な山道を登っていた。
 レーネン山越え道沿いに魔物が出て人を食らうという噂が、麓の町では囁かれるようになっていた。
 今、少年が登っている道は山越え道の裏道で、魔物が出るといわれているあたりへと出る最短の経路である。

 少年の行動の発端は、昨夜、父に就寝の挨拶をするために執務室へ行った時にある。
 その時、父と大叔父が会話していた。
「確かに、町の維持のためには、街道に魔物が出てもらっては困る。とはいえ、あの青年に魔物が討てるのか? そもそも、あれは、本当に魔道士なのか?」
「修行中の身かもしれませんが、あのフードを着けているからには、彼もれっきとした魔道士会の魔道士です。それに、魔物を討ち果たしてもらう必要はないので。魔物と出遭って、どの程度の魔物であるか分かる結果を出してくれるだけでよいのですから。討伐の方策については、それから考えればよろしいのです」
「それもそうだな。しかし、彼が魔物に出遭うという保証はあるまい」
「それについては、手立てが。魔物寄せの術をかけた物を持たせて出立させればよいのです。彼は、あの程度の者。それに気づくことはありますまい」



身代わり令嬢の失恋身代わり令嬢の失恋 →すぐに読む
文 早瀬千夏/絵 女将

お嬢様の身代わりとしてお見合いの席に臨んだメイドのジョーン。破談させるはずが、まさかの一目惚れ!?
ラブロマンス


■■ 冒頭抜粋
 エルダー家に奉公するハウスメイド、ジョーン・アダムスの朝は早い。
 彼女は六時に起床すると午前用の仕事着である、サーモンピンクのプリントドレスを着て、丈夫な麻地のエプロンの紐を結ぶ。石炭運びや暖炉掃除で汚れてもかまわないように。
 裏階段を下りて地下の石炭置き場に行くと、シャベルでバケツに黒い塊を入れた。両手で持って、ふたたび同じ階段を上がる。
 二階に到着すると、ずらりと部屋が並んでいた。あるドアをそっと開ける。ここはエルダー家の次女の部屋で、ジョーンの担当のひとつだ。だから用があればいつも駆けつけるし、掃除もまかされている。
 ゴム底靴の足音を立てないようにそっと入室し、細心の注意を払って暖炉の火をおこす。マッチを擦って藁に点火し、小粒の石炭を燃やす。そして大きな石炭に早く燃えうつるようふいごで風を送った。ぽうっと炎が大きくなり、石炭が赤々と熱を帯びた。
 のんきに温まっているひまはない。ほかの部屋も回って火をおこさないと。
 ジョーンは入ってきたときと同じように、足音をしのばせて部屋を出ようとしたのだが。



魔女の戸棚魔女の戸棚 →すぐに読む
文 相沢秋乃/絵 あから

凍えそうな心を抱えて帰宅した深雪。双子の妹達が双子の魔女に助けを求める。「深雪ちゃんが大ぴーんち!」
現代青春抄


■■ 冒頭抜粋
 薔薇に囲まれた洋館には、二人の魔女が住んでいる。
 それはあたしたちのことさ、と、双子の魔女は、ひひひと笑って言いました。



 びしゃびしゃと、雨が降っていた。
 傘の骨が折れているからなのか、降りしきる雨はいつの間にか、内側まで侵入してきていた。気が付くと、じっとりと袖が濡れていた。制服のスカートにもいくつものシミができていて、まだら模様になったひだひだが、重たく足にまとわり付いている。お気に入りのローファーも水が染みてしまっていて、つま先がじっとりと冷たい。白い靴下には泥のシミ。お下げにした黒い髪はべっとりとして、いつもよりもっと野暮ったく見えるに違いない。鞄もずっしり重かった。佐織とお揃いのストラップまで、しょんぼりと雨に濡れている。
 はああ、とあたしはため息をついた。
 なんだかもう、嫌になっちゃう。
 あたしは落ち込んでいた。それはもう、どん底にまで。今日はいわゆる『厄日』というやつだったのだろう、朝から、何もかもが上手くいかなかった。朝食の時に見たテレビの占いは最悪だったし、バスがすごく混んでいて、お気に入りの傘の骨が折れてしまったし、数学の授業では当てられたし、ちゃんと解けたのに解答を間違えたし。そして。
 佐織、やっぱり、怒ってるのかなあ。



孤島に潜む影孤島に潜む影 →すぐに読む
文・写真 紅侘助

『神話』に深く魅入られた男が辿る数奇な運命――それは、人が足を踏み入れてはならない世界――
怪奇幻想譚


■■ 冒頭抜粋
 虚構が現実を凌駕する。あるいは、作り事であるはずのものが現実世界を侵食していく。
 実際にはあり得ないそういったことが、確かに存在すると思うのです。

 きっかけはネットサーフィンでした。H・P・Lを始祖とする『神話』群を扱ったサイトを渡り歩いているうちに、とあるファンサイトに辿り着いたのです。
 そこには『神話』に関するありとあらゆる項目が整然と纏められており、「クロニクル」あるいは「エンサイクロペディア」とも言うべき様相を呈していました。
 研究書を上梓したり論文を纏めたりする専門性はなくとも、その世界に強い関心を持つ私は、時が過ぎるのも忘れ画面に見入っていました。
 それに気付いたのは、ほんの些細なことからでした。
 ブラウザの画面サイズを変更しようとマウスを滑らせた時です。テキストも画像も何もない部分を白い矢印が横切る短い間に、一瞬だけポインタが指の形に変わり元に戻ったのです。隠しリンクだとピンと来ました。私は管理人の仕掛けた悪戯に応じるため慎重に画面を探り、ポインタを合わせると迷わずクリックしました。




フォルトナはきみに微笑む −For/tuna in Dice-Kingdom−フォルトナはきみに微笑む
−For/tuna in Dice-Kingdom−
 →すぐに読む
作 楽山やくら/絵 重森まさみ

ダイス・キングダムでは、すべてがダイスの目で決められていた。政治も経済も、そして――人の生き死にも。
異色ファンタジー


■■ 冒頭抜粋
[1]城の外

 右手にダイス。
 左手に薬。
 そうしていつも、わたしは振っていた。
 コロコロと転がるダイスは、とまった数字を確認したとたん、消え失せる。
 残るのは、冷たい結果だけ。毎日わたしの目に焼きつく、【0】の数字。
「――ごめんね、おじいちゃん。わたし、今日もお薬をあげられないの……」
 もう涙も出なかった。
 日に日に弱ってゆくおじいちゃんを見ても。
 それでも微笑む、おじいちゃんを見ても。
 泣けなかった。
「トナ……運命を、恨むんじゃないぞ」
 そう言い残し、とうとう死んでしまった、おじいちゃんを見ても。
 ――わたしは、泣けなかった。
 ただ哀しみと、なにもできなかった悔しさと――憎しみが、募るだけで。

 だからわたしは、旅に出た。
 もう一度――泣くために。
posted by なび at 16:02| 既刊